アートイン西陣西陣発の作品展


町がアート アートな町

 西陣に移り住んだアーティストたちの数が増えるにつれ、西陣発の作品展をしようという声も大きくなっていった。中には西陣織の布地やネクタイ地を使った作品もあったが、ほとんどが、織り機のあった跡を制作場所にして別の分野の新しい作品を作り出すアーティストたちだった。そのため、会場となった織物工場跡地にはバラエティーに富んだ作品群が並ぶことになった。写真、水墨画、陶芸、照明、建築、服飾デザイン作品、現代アートなど、その数と規模が年々大きくなって、会場も二つの工場跡地で行うようになった。メンバーの中にはミュージシャンもいるため、会場ではコンサートも行われた。
この作品展は「アートイン西陣」と名付けられ、96年から5年連続して行われた。その後、会場の工場跡が取り壊しの運命になったので、2年ほどブランクはあったが、昨年復活した。今回は大きな工場跡地ではなく、アーティスト工房を回って歩く、地域性を持たせたものに変化させた。物づくりを育んできた町そのものをアートとして捉えてもらうのが狙いで、点在する史跡や町並み、路地の普段の姿をそのまま自然な形で見てもらおうという試みだ。
よくあるアート展は、お寺や商店街の会場にずらっと野外展示作品が並んでいたり、町全体にどっさり作品が置いてある手法が多い。それはそれで、アート一色という意味では、いいのかもしれない。しかし、終了後はただの普通の町に戻り、以前と同じように人が来なくなるのでは、あまり意味がないような気がしていたので、そういう方向は選ばなかった。
アーティストによるアーティストのための展示会ではなく、地域を見てもらおうというコンセプトで行った。そのためにアーティストが中心になる場合があってもいいのではないかと。
その1週間後には、西陣織工業組合の主催で、西陣の織り元が中心になる「西陣夢まつり」が行われた。過去には、このお祭りと同時開催した場合もあったが、時期をずらすことによって、それぞれの主体性や目的が明確に区別され、呼び込む年齢層や対象が異なるという、いい効果を生むことになった。アーティストの工房は普段もやっているので、「西陣夢まつり」に来た人が見学していくことによる相乗効果も生まれた。
紋屋町の三上家路地だけは、子供たちが作った行灯(ルビ・あんどん)でライトアップしたが、奇をてらうことなく、自分たちができる範囲にとどめることにした。紋屋町に住むアーティストたちと大家さんの協力を得、夜になると行灯に浮かび上がる路地の町並みがとても美しかったのを覚えている。また、逆にぞろぞろ人が来ないのが却ってよかった。落ち着いて見られるからだ。
そういうことを考えていくと、いったい何が成功なのだろうかと考えてしまう。たまたま通りがかった人が、ほのかな光に照らされて浮かび上がる町並みに「ほっ」としてくれる。そんな状況が生まれるならば、理想的だ。ぞろぞろと多くの人が訪れて、静かな風情が望めない状況というのは、印象的ではないような気がするのだ。